鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

裏切りとタメ

吉川友さんのニューシングルのミュージックビデオがリリースに先駆けてYouTubeで配信中。両Aサイドシングルとなっている2曲の内、特に『あまいメロディー』は、これまでシングルタイトル曲にはなかったタイプの曲で、アルバム曲などで見せていた吉川さんの憂いを含んだ部分を堪能できる曲になっていると思います。



『あまいメロディー』では、サウンドの「裏切り感」と「タメ」が、曲の魅力を増す大きな力になっていると思います。
曲の冒頭はピアノのフレーズ。F、C、Dの3音だけで構成されたこのフレーズは長調とも短調とも決定づけられないため、この時点では明るい曲なのか切なげな曲なのかははっきりせず、音色からはむしろ明るい曲調が予感できるかもしれません。そのフレーズが8小節続いたあと、ほかの音が加わって短調であることが示されることでひとつの「裏切り感」が生まれ、グッと曲に引き込む感じがあると思います。
そして歌が入って8小節はかすかに金属系の音が入るものの明確なリズムを刻むパートはなく、ほぼピアノと歌だけです。9小節目から8分を刻むフレーズが入り、ここから徐々に盛り上げていくのかと思いきや、次の8小節はまた明確なリズムパートがないという、逆に盛り上がりを抑えたようなサウンドの構成となっており、ここでも「裏切り」があります。それが8小節続いたところで、ようやく「タメにタメて」満を持してという感じで4つ打ちのキックが入り、さらにそこにシンセドラムの音が加わるとともにキックが倍の8分を刻み盛り上がったところで、サビに突入です。サビはより低音の目立つリズムパートがはっきりとビートを刻むのに加え、全体的に音数も増えて曲を盛り上げているのですが、やはりサビに至るまでの「まだいかない、まだいかない」という「タメ」が、サビの抑えてきたものが弾けるような盛り上がりにつながっていると思います。
この「裏切り感」と「タメ」は、2番でも引き続き使われています。冒頭からリズムパートが入っており2番はこのままいくのかと思わせつつ、またリズムパートがなくなるという「裏切り感」。徐々に盛り上がりつつもなかなかリズムパートが入ってこない「タメ」。歌のない部分が続き、そろそろ歌が入るかなという予想を「裏切り」、歌なしで引っ張っていく「タメ」。また、2番では加工されたボイスが効果的に使われているのもポイントです。


重要なのは、この「裏切り感」や「タメ」で生まれるサウンドの抑揚が、歌詞で描かれる「抑えようとしても抑えきれない気持ち」とリンクして、歌詞の世界をより強調する役割を果たしているところ。


歌詞とサウンドが互いを引き立てていき約4分のなかでドラマを感じさせてくれる、そんな1曲です。