ツイッター上で拡散した娘。メンバーに関する捏造された情報について
今回は普段の更新とは趣旨の異なる内容であることを、最初にお断りしておきます。
アイドル情報を扱う雑誌『Top Yell』の２０１２年１月号（２０１１年12月発売）に掲載された記事の中に「娘。の10期メンバー・工藤さんが９期の譜久村さんを説教した」という内容の記述があります。
この記述は、11月にツイッターで広まった情報を元にしたものと思われますが、流布されたこの情報は事実ではありません。
以下、この事実ではない情報が拡散してしまった経緯や、その背景についてのちょっとした考察を書いていきます。
拡散の経緯
この情報が拡散したのは、ファンクラブ会員向けイベントである娘。９期メンバーのバスツアーがおこなわれていた11月５日の夜から６日にかけてです。拡散されたのは、以下の文章です。
@******* 譜久村の談話「工藤遥ちゃんに早速怒られたんです。9期で一番お姉さんなのに何してるの、エッグで何を教わってきたの、って。悔しくて情けなくて泣きました」#9ki_bus #morningmusume
冒頭には実在のツイッターＩＤが含まれるためその部分は伏せ字にしています。
９期バスツアーのリポート用の“#9ki_bus”と娘。の情報につける“#morningmusume”とふたつのハッシュタグが付けられており、バスツアーでの発言をレポしたと思わせるものになっています。
５日深夜から、公式・非公式リツイートが繰り返され「バスツアーで実際にあった発言」と捉えられて広まっていきました。
11月６日に、ツイッター検索、およびツイッターを対象としたYahoo!リアルタイム検索を使って調べたところ、リツイート元となった発言は「５日22:18:02」にツイートされたものと特定できました。
この、５日22:18:02のツイートの発言者を、仮にＡさんとします。Ａさんのこのツイートの前後のツイートを見ると、Ａさんはバスツアーに参加していないことが明らかでした。
また、冒頭が「@ツイッターＩＤ」となっていることからわかるように、このツイートはもともとＡさんが相互フォローしているＢさんへの返信としてツイートしたものです。
このツイートの前に、ＡさんとＢさんの間では「工藤が譜久村泣かしたのか（Ａさん）」「なにそれ詳しく（Ｂさん）」という内容のやりとりがあり、その直後に拡散したツイートがツイートされています。
Ａさんがバスツアーに参加していないことと「泣かしたのか」という表現から、Ａさんは、なにか別のソースで知ったことをツイートしたことがうかがえます。
Googleで検索したところ、２ちゃんねるの狼板に、拡散したツイートとまったく同一の文章を>>１とするスレが11月５日21:21:25に立っていたのが見つかりました。（http://hato.2ch.net/test/read.cgi/morningcoffee/1320495685/）
この>>１には、ツイッターＩＤのような文字列（ＡさんともＢさんとも異なるもの）に続いて文章が書かれ、末尾にはバスツアー、娘。両方のハッシュタグもついており、あたかも「ツイッターから転載した」ような体裁となっています。
しかし、冒頭の「ＩＤ」は実在するものの、２０１０年７月にハロプロと無関係の２ツイート（内ひとつは公式ＲＴ）がされただけでその後一切ツイートのないＩＤであり、スレの>>1で挙げられたツイートはもちろん確認できません。*1
この>>1の文章は、スレが立った数分後から、狼内のいくつかの他スレにコピペ転載されています。
時系列から考えて、Ａさんは狼の元のスレ、あるいは転載されたスレを見て、22:16:01のツイートをツイート。それを見たＢさんの返信に応えて、２ちゃんねるのスレからコピペをして拡散元となったツイートをしたものとの推測ができます。
流れとしてはこういうことです。
５日21時21分：２ちゃんねるにツイッターの転載を装った文章が書き込まれる
↓
（２ちゃんねる内での他スレへの転載）
↓
５日22時18分：２ちゃんねるを見たユーザのコピペによりツイッターに流入
↓
ツイッター上で拡散
ツイッターの発言を装った文章が実際にツイッターで拡散するという状況が起きていたわけです。
６日になってから、複数のバスツアー参加者によって「そのような発言はなかった」という趣旨のツイートがされています。（https://twitter.com/moezoone23/status/132931541969010688、https://twitter.com/minatatu/status/133088742389981184、https://twitter.com/toru723o/status/133081984196018176 など）
まとめます。
- ツイートの拡散元となったのはバスツアーに参加していない人のツイート
- そのソースは２ちゃんねるに書き込まれた、存在が確認できない“ツイートの転載のような”文章
- バスツアー参加者からは発言を否定するツイート
拡散したツイートに書かれていた情報が捏造されたものであったことは確実と言えるでしょう。
なぜ「拡散」したのか
この情報がなぜツイッター上で大きく広まってしまったのかを考えてみます。
１．ハッシュタグの存在
拡散元となったＡさん、Ｂさんは11月６日時点でフォロワーはそれぞれ50名、１２０名程度で、決してフォロワー数の多いユーザというわけではありません。
今回、広い範囲にツイートが拡散した理由として、ハッシュタグの存在が挙げられます。
バスツアーは参加者の限られるイベントですから、ツアーの模様を知るためにバスツアーのハッシュタグの付いたツイートをチェックしていた方は多かったと推測できます。これにより、拡散元のフォロワー数を大きく越える人々がこのツイートを目にすることになったと考えられます。
２ちゃんねるに書き込まれた捏造の文章がハッシュタグによる拡散まで計算していたとしたら、ツイッターのシステムをよく理解した巧妙なものと言えます。
２．発言者が明示されていることへの過信
ツイッターは「どのアカウントによる発言か」が明白です*2。そのことが「ツイッターでの情報は信頼できるもの」という過信を生んでいたのではないでしょうか？
特に、個人それぞれのタイムラインは、なんらかのかたちで“知っている人”のツイートが大半を占めることが多いはずです。ゆえに「自分のタイムラインの情報は信頼できる」と思いがちになるのではないでしょうか。公式、あるいは非公式のリツイートで自分のタイムラインに現れると、知らないアカウントによるツイートでもあまり疑問を持たないのかもしれません。
もし、疑問を持って元のツイートを確かめていれば、元のツイートがバスツアーに行っていない人のツイートであることは明白だったはずなのですが。
ちなみに、ツイッターでの拡散が始まった時点で、大元となった２ちゃんねるのスレでは、ソースとされたツイートが実在しないことから捏造であるとの指摘がされていました。
なぜ「事実と受け取られた」のか
この情報が広まったことについて、別の角度から考えてみます。
広く情報が拡散したということは、事実と受け取った人が多かったということだと思います。つまり「後輩である工藤さんが先輩を説教する」という内容が「いかにもありそう」と思われたということです。
工藤さんは、娘。メンバーで最年少でありながら、歌やダンスの実力があり、コンサート、イベントなどやメディア上での発言もしっかりしている――というのは、ある程度に娘。の活動を見ている人の間では共通の認識となっているように思えます。
そこから、“勝ち気、リーダー格”といったイメージが拡大されて、一部では極端な“キャラ”が付けられている節があります。「先輩を説教する」という内容は、その“キャラ”によくマッチしたもの、極端な表現をすれば、一部のファンの“期待に応えるもの”だったのではないでしょうか。だからこそ拡散したのだと考えることもできると思います。
ハロメンに“キャラ”を付けるという楽しみ方は以前からありましたし、私自身もハロメンの“キャラ”を楽しんでいる部分はあります。それを棚上げした上で書かせていただくと、最近一部のファンの間では、その“キャラ”重視の傾向が行き過ぎているように感じられるところがあります。
数ヶ月前にも、あるハロメンに関する捏造された話題が２ちゃんねるおよびツイッターで拡散したことがありました。やはりそれも、そのハロメンの“キャラ”を拡大させたものでした。*3
ファンがネットを中心に作り上げた“キャラ”を、現実に押しつけようとしているような状況が、最近は目立つように思えます。
アイドル、芸能人であっても、突き詰めればそこに生身の人間がいる。そのことが軽視されている傾向があるように思えてなりません。*4
終わりに
私は、ツイッターで件の情報が拡散した11月６日に
をツイートしました。幸いにも何人かの方にリツイートしていただき、ささやかながらもこの情報の拡散を抑える効果はあったかなと思っています。
その後、このブログで一連の経緯をまとめておこうかとも思いましたが、その際はやめておきました。ブログにまとめることが、逆に捏造された情報を拡散させることにつながるのではないかと考えたからです。
しかし今回、雑誌に件の情報が掲載されました。
あくまで“アイドルに詳しい人のコメント”であり「という話もあって」「ようです」と断定は避けているものの、インタビューやコンサートレポートなど、きちんとした取材に基づいて書かれた記事と同じ雑誌に掲載されることによって、件の情報が再び“事実”として拡散してしまうのではないかという危惧を抱きました。
そのため、件の情報が捏造であることをなんらかのかたちで明示すべきと考え、このエントリーを書いた次第です。
最後に、特定の人物を非難する目的ではないため、引用したツイートの一部を伏せ字にしたこと、また一部のツイートについては引用ではなく概要を伝えるかたちにしていることをお断りしておきます。
