鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

新しい靴を買いにいこう

ずいぶんと履き古してしまった靴を、それでもまだ捨てられないのは、きっとさまざまな記憶がその靴とともにあるからだ。
あの日も、その靴を履いていた。
空には灰色の雲が低く立ち込めて、じっとりとした暑い空気に包まれた街を、ぼくは歩いていた。
ぼくが観ることができる最後のステージは、もう終わっていたけど、ほんとうに、ほんとうに最後となるステージが終わるまで、どうしてもその街を離れたくはなかった。
地下道や、新宿通り、靖国通り。ぼくは何時間も歩き回った。
そして、すっかり日も暮れたころ、劇場から溢れてくるざわめきを、少し離れて眺めていた。


もう2ヶ月と何日かが過ぎれば、あれから2年になる。その間に、街の姿も少しずつだけど確実に変わっている。
あの日ぼくが立ち寄った店のいくつかは、もう姿を消してしまった。あの日にはなかったビルは、たくさんの人で賑わっている。長く続いていて街の象徴のようだった工事はようやく終わりを迎えたらしい。
そして、あの夏の中心だった劇場も、今年一杯で閉館するという。
2006年の8月27日にぼくが歩いた新宿は、もうない。


履き古した靴の磨り減った靴底や、甲革の細かな傷は、あの日ぼくがそこにいた証拠で、そこには記憶がともにある。
あの日が過去になってしまわないように、ぼくはその証を手元に置き続けようとしていたのかもしれない。


でも、もうあの日は過去にしてしまってもいいのかもしれない。
懐かしむ記憶の中だけではなくて、これからまた彼女の姿を見られること、彼女の声を聴けること、また新しい記憶を増やしていけること。それはなんて幸せなことだろう。
どんなふうに歩くのかは、まだわからない。どこまで歩くのかも、まだわからない。
でも、まずはとにかく歩いてみようと思う。


新しい靴を買いにいこう。




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小川麻琴さん。二十歳になったあなたが、なにを見せてくれるのか、私はとても楽しみにしています。