鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

スタジオでのコミュニケーション

現在、アップフロントグループYouTubeで定期配信している番組の中でも『MUSIC+』は音楽制作の過程が見られるのが私にとっては魅力的で、毎回配信を楽しみにしています。
2016年初の配信となった第86回では、℃-uteのアルバム収録曲『情熱エクスタシー』ギターレコーディングの模様が特に興味深かったです。



著名なギタリストであるマーティ・フリードマンさんが参加してのレコーディングなのですが、冒頭のやりとりを少し文字起こししてみます。

弦が ♪〜(ギターでストリングスのフレーズを弾いて)やってるじゃん?
で、ギターが  ♪〜(ギターのバッキングフレーズを弾いて)
ということは  ♪〜(ギターで和音を鳴らし)になってるなんですけど、それはわざとですか? それは守りたいとか?

この部分、ギターのバッキングは和音のルート(根音)がB♭、A、Gと下がっています。
一方でストリングスのフレーズはキーがEmなのでBの音が使われています。
つまり、マーティさんが実演したとおり、ルートのB♭と半音上のBが同時に鳴っている瞬間があるわけです。
これはたぶん普通の作曲や編曲の作法から言えば「使わない」はずの音使いで、マーティさんが「わざとですか?」「守りたいとか?」と尋ねているのは、意図的にこの半音の組み合わせを使っているのか、それは絶対にこだわって変えたくない(=守りたい)のかということを聞いているのだと思います。


このマーティさんの確認に対するスタッフ側の反応でさすがだなと思ったのは、チーフディレクターである橋本慎さんの対応。まず
「俺はオッケーだけど、どう?(笑)」
とほかのディレクターや作曲・編曲者の見解を尋ね、ほかのスタッフ陣から意見が出ないと自身でマーティさんに対し
「ま、リフがね、♪〜♪ ってB♭に行くから。B♭のほうがいいねえ」
「あとベースも全部B♭…」
この発言で、マーティさんも「ああ、なるほどOK」となるわけです。
映像にはないけれど、おそらくここでマーティさんからギターのフレーズを変えてはどうかという提案もあったのではないかと思います。
それに対して、橋本さんが、まず「俺は(元のフレーズで)オッケーだけど」と自分の判断を伝え、次に「なぜ自分はオッケーと判断するのか」という理由と工程上の理由を伝えている。こうやって「なにに基いて判断するか」という価値観が伝えられることで、マーティさんはその後の作業に進めるわけですね。
音楽を作るという作業の上でのコミュニケーションの重要さを示している映像だと感じました。


『MUSIC+』は最新配信分より新たに『アプカミ』というタイトルにリニューアルしましたが、制作の裏側は変わらず取り上げてくれるようで、これからも毎回の配信を楽しみにしたいと思います。