鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

ふたつの「涙」の理由

娘。さんのアルバム『Fantasy! 拾壱』に収録されている『愛しく苦しいこの夜に』は、ストレートな表現をしてしまえば“恋人と初めて結ばれる夜”を歌った歌です。
その情景をかなり具体的に浮かびあがらせる歌詞ですが、直接的な表現を巧みに避けることで、体温を感じさせつつも決して猥雑ではない透明感のあるラブソングとして成立させているのは見事です。
また、時系列に沿って状況描写をむしろ淡々と重ねることで、その中に織り交ぜられる感情をより引き立てているのもうまいところです。


さて、モーニング娘。の曲には『愛しく苦しいこの夜に』と同じように、初めて結ばれる恋人たちの歌がほかにもあります。メジャーデビュー曲である『モーニングコーヒー』もそうです。正確には、結ばれるひとつ手前のステップの歌というべきでしょうか。
モーニングコーヒー』と『愛しく苦しいこの夜に』を比べてみると、いくつかの共通点があることに気づきます。
まず、サビから始まる曲の構成が似通っています。サビに続くAメロが、『モーニングコーヒー』では同じフレーズが2度繰り返され、『愛しく苦しい〜』では2度目はメロディが変化して「AA’」のかたちになっていますが、大まかな「サビ→A→B→サビ→A→B→サビ→サビ」という構成は共通しています。
その歌い出しのフレーズを見てみましょう。

ねえ はずかしいわ (ドキドキ)
ねえ うれしいのよ (してる)
あなたの言葉
モーニングコーヒー飲もうよ 二人で」
(『モーニングコーヒー』)

Ah あたたかい 君の言葉が
胸に こだましてる
Ah 包まれる やわらかな手に
息をひとつ飲んだ
(『愛しく苦しいこの夜に』)

どちらの曲も、歌い出しで「あなた/君の言葉」が歌われています。そして、歌い出しのフレーズと対応するように、やはり「あなた/君の言葉」を歌ったフレーズで、曲は締めくくられています。


さらにこの2曲にはもうひとつ共通点があります。それは同時に、この2曲の相違点を示してもいます。

あぁ 泣いてるのは (トキメキ)
そう うれしいから (なのね)
私の想い (I love you I love you forever)
(『モーニングコーヒー』)

Ah なぜだろう 涙流れる
悲しいわけじゃないのに
Ah なぜだろう 愛しい苦しい
胸が胸が苦しい
(『愛しく苦しいこの夜に』)

間奏明けで、ふたつの曲の主人公は(『モーニングコーヒー』ではそれ以前に出てきたフレーズの繰り返しではあるけれど)、いずれも涙を流しています。
自分でその理由がわかっている『モーニングコーヒー』。
自分の涙に戸惑いを覚えている『愛しく苦しいこの夜に』。
このふたつのフレーズから、それぞれの主人公像に想いを巡らすのも面白いかもしれません。