鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

ぼくらのスイーツ

ハロー関係では全国各地でいろいろとあったゴールデンウィーク、私は5日に小川さん出演の『2LDK』を観てきました。
ひとつの脚本を5日間、5組10人の女優が日替わりで演じていくという趣向のふたり芝居で、小川さんは楽日となる5日に肘井美佳さんとのコンビでの出演でした。
小川さんが演じるのは女優の松本希美。そして肘井さんが演じるのは希美と同じ事務所の先輩女優・橘ラナ。
事務所の寮である2LDKの部屋で共同生活を送っている希美とラナは、性格の違いから互いに不満を抱えて小さな衝突を繰り返すこともしばしば。そしてついに……というストーリーです。
事前にブログなどで明かされていたとおり、ふたりの激しい乱闘シーンもある迫力の舞台でした。ふたりともジュースやらジャムやらヨーグルトやらにまみれて、劇の後半になると場内にいろいろな匂いが漂ってきました(笑)。
さらに、女性同士のキスという、最近の娘。コンを観ているとごく日常的な状況に思えちゃうけど世間一般の基準で考えてみたらかなり衝撃的なんじゃないかあれはというシーンも。まさに体当たりの熱演というのにふさわしい演技で、親指の骨にひびが入るというのも無理からぬことと思える舞台でした。


個人的には『桃色書店へようこそ』の次に、わずか2週間ちょっとという間隔でこの舞台だったことは小川さんにとって大きかったのではないかなと思っています。
昨年の『こもれびの中で』は、舞台セットがまったくない舞台で、同じ西澤先生演出による『桃色書店』も、部屋の場面ではソファー、店の場面ではレジカウンターとホワイトボードが用意されるものの、ほんとに最小限のセットで、場面によってはそのとき登場人物が手に持っているはずのものすら実際には存在せず、役者さんたちの演技だけで見せていくものでした。
対して今回の『2LDK』は、タイトルどおり舞台上に2LDKの部屋が作られています。もちろん舞台セットですから壁やドアなんかは省略されていますが、別にストーリーに関係するのではない家具や電化製品、部屋の中のさまざまな小物まで、現実の室内のようにきっちりと作り込まれています*1
『桃色書店』は役者さんが演技によってその場の情景を作っていく舞台で、『2LDK』は演じる空間があらかじめ作られた舞台という見方ができると思います。
それはセットについての話だけではなくて、『桃色書店』は西澤先生のブログやコメントを見ると、お芝居全体も役者さんが稽古を重ねる中で世界を作っていくという部分も大きかったのではと思います。一方『2LDK』は5組共通の脚本で「こういうお話でこういう役」と決まっている世界の中に役者さんが入っていく。特に小川さんの場合、『桃色書店』の公演があったためにほかのキャストに遅れて稽古に参加したみたいですし、できあがっている世界の中に入っていくって感覚は強かったんじゃないかと思うんですよ。
そういう、ある意味対極にある舞台が短い期間に続いたことは、小川さんにとっては大きな経験になったのではないかと思うのです。



それからもうひとつ。劇のラストの部分に触れるので「続きを読む」にしておきます。



『2LDK』って、劇の内容と現実とがパラレルというか、相似形になっている作品だと思うんですね。
劇の中ではふたりの女優が殺し合いという極限状態を経験するわけですけど、現実にもふたりの女優さんは稽古や本番を通じて極限状態を経験してると思うんです。
もちろん、現実ではふたりは実際に殺し合いをするわけではありません。だけど、実際に怪我もしちゃうくらい肉体的にも過酷な舞台だし、最終的にはメイクも落ちちゃって髪もグチャグチャになった姿を人に見られる、そして人の心の醜い部分を演じるという、いろいろな意味で「さらけ出す」ことが要求される舞台なわけで、精神的にも過酷だと思うんですよ。やっぱりそれはある意味で極限の状態だと思うのです。


「不安や葛藤も抱えた若い女優が、極限状態を経て女優としての生き様を選択する」というのが『2LDK』という物語だと思います。そして、その状況を実際に若い女優に経験させるということが、演出の堤幸彦監督と脚本の三浦有為子さんの狙いとしてあったのではないのかと思うのです。
終演後のあいさつで、小川さんは「新しい自分を見つけられた気がする、ステップアップができた気がする」という意味のことを言っていましたが(そしてなぜか客席からは笑いが出てましたけど)、それは劇中の希美と同じように、ある種の極限状態を経て小川さんが見出したものなんじゃないかと思います。


小川さんは、堤監督や三浦さんが与えた『2LDK』という体験をきちんと生きることができたのではないか。あのあいさつを聞いて、私はそう思っています。

*1:これはストーリー上で大きな意味を持つアイテムだけが目立ってしまうのを防ぐという意図はあったと思います