鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

『桃色書店』に流れているもの

12日、13日と、2日続けて小川さん主演の舞台『桃色書店へようこそ』を観てきました。
小川さんが演じるのは、バイト先の古本屋がアダルトショップ化してしまい、その上店長に指名されてしまった女の子・ぽんちゃん。
ぽんちゃんと、外岡えりかさんが演じる妹で大学生のちぃちゃんの、ある事柄をめぐってのすれ違いを軸に、ぽんちゃんの店でのさまざまな出来事が描かれていくストーリーです。
ゲストコーナーなど、遊びの要素も取り入れられたような場面も多く、ライトでコミカルな、ハートウォーミングな舞台となっていました。




でも、最後まで観終わったとき、ただハートウォーミングなだけのお話ではなかったんじゃないかな、という想いが残りました。


※以下、私の勝手な解釈を書いています。舞台をまだご覧になっていない方は読み飛ばし推奨です。



劇のラストは、ぽんちゃんたちがお花見に行く場面です。主な登場人物がみんな集まって記念写真を撮り、ストーリー上はその場にいないはずのちぃちゃんも、そこに加わります。
その記念写真の場面は音楽に乗ってそのままダンスへとつながっていき、ちぃちゃんひとりを残し、ほかの登場人物みんなが地面に倒れ伏すような振りつけがあります。
そのとき、ぽんちゃんをはじめとする登場人物全員が、一瞬前の記念写真を撮るときの笑顔ではなく、まるで表情を失ったような虚ろな顔で地面に倒れ伏していくのです。
体の内側がざわつくような感覚を覚えました。
その場面が、ちぃちゃんがほかの登場人物とは異質の存在であることを示しているように思えたのです。


思い出してみれば、この劇は部屋でアルバムを眺めるぽんちゃんにちぃちゃんが話しかける場面で始まります。
劇の中で、もう1度アルバムが登場するシチュエーションがあります。店のバイトのひとりが彼女に逃げられてしまうエピソードです。その場面でアルバムは「いつか決別しなければならない思い出」の象徴として使われています。そしてぽんちゃんが「アルバムを捨てるって難しいよね」というセリフを口にします。
ほかにも、暗示するような箇所はあります。ちぃちゃんが小さなころ体が弱かったという思い出話。「子供は生きているだけで親孝行している」という社長のセリフ。


それから、これは家に帰ってから劇中で使われていた曲を調べていて気がついたことなのですが……。
今回の劇では、冒頭や印象深い場面で『おやすみのキスを 〜Good Night My Love〜』という曲が使われています。アーティストはDOUBLE & 清水翔太。DOUBLEは、姉妹デュオとしてデビューしつつ、お姉さんの逝去により現在は妹さんのソロユニットとして活動しているアーティストです。


今回と同じく西澤周市さんが作・演出をつとめた昨年の小川さん主演の舞台『こもれびの中で 2009』は、明確に“死”を背景とした作品でした。物語の中心人物である柴崎カナの死に触れたとき、残された者がどう生きていくか、どう生き続けなくてはいけないかを描いた作品だったと私は思っています。
桃色書店へようこそ』にも、表立って謳われてはいなくても、やはり“死”が、そして“死”とともにある“生きること”が、明るい表層のすぐ下に流れていたように私には感じられたのです。