鉄よりつよいもの。(旧)

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4分間のドラマ

CDリリース以降、真野さんの新曲『春の嵐』をしょっちゅうリピート再生しています。

春の嵐(初回限定盤B)

春の嵐(初回限定盤B)


聴くたびに、この楽曲の世界が強固に作られていることを感じさせられます。


楽曲のテーマとなっているのは、歌詞でも歌われている「わたしのこころに生まれた ジェラシー」。しかし、フォーカスはむしろ嫉妬の感情そのものよりも“いままで知らなかった自分の中の感情”に揺れる少女の心理に合わされているように思います。
その心の揺れを象徴するのが、サビのメロディです。
曲のクライマックスとも呼べる「嵐を呼ぶ」の部分はおそらくこの曲の中で一番高い音が使われています。その音からの半音の下降が、どうしようもなく不安定な少女の心の危うさを感じさせます。それに続く、終止感を与えるフレーズは数度低い音で歌い出され、そのギャップは少女の二面性を暗示しているようです。


歌詞もまた、心の揺れを感じさせます。
歌詞は一貫して「わたし」の視点から描かれていますが、その視点は不安定に揺らいでいるのです。
Aメロでは、「空」を見上げていた視点が、直後に自分の内面へと向きを変えています。その視点の移動が不安定な揺れを生じさせています。
これは2番でも同様で、「二学期」を振り返っていた視点は、いつしか現在と過去を対比する視点へと変化して、ここでも揺れを生み出しています。
サビで歌われるのは、「あなた」を見る「わたし」の視線と、「わたし」が気づいた「あなた」が「彼女」を追いかける視線。決して交わることのないふたつの視線の対比が、切なさを募らせます。


さらに、アレンジが感情の起伏をより明確にしています。
冒頭ではピアノでサビのメロディが奏でられます。しかしこのときメロディがサビのクライマックスまでは至らないのは重要でしょう。
Aメロの無機質で硬質なトラックは、つとめて客観的に自分を見ようとしている歌詞の「わたし」の心理とシンクロするようです。その中で、寄せる波のように徐々に大きくなるドラムの音が繰り返され、不穏さを漂わせていきます。
続くBメロでは、シンセによるオブリガートが感情の昂ぶりを表すかのように奏でられます。
そして、押し殺していた感情が弾け飛ぶのが、サビ。Aメロ、Bメロでは使われていなかったピアノの音がここで加わり、感情をさらけ出すような最後のフレーズではピアノがメインのバッキングを担っています。“真野恵里菜”の象徴的な存在であるピアノが情動を表現するかのように使われているのは興味深い点です。


そんな『春の嵐』という曲を、真野さんは歌うと同時に演じていると思います。『春の嵐』は、4分間のひとつのドラマだと思うのです。