鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

「らしい、っぽい」

ネット上なんかで、たまに「アイドルっぽい曲、アイドルらしい曲」という表現を見かけることがあります。どういう曲のことを指しているかというと、「明るくて元気でかわいい曲」を指して使われることが多いみたい。
たしかに「アイドルっぽい曲」って書いてあるのを読むと、そういう「明るく元気でかわいい曲」のことなんだろうなってすぐイメージが沸くんですけど、改めて「じゃあどんなアイドルが“明るくて元気でかわいい曲”を歌っていたんだろう?」って考えると、ちょっと考え込んでしまいます。
もちろん「明るくて元気でかわいい曲」の実例なら何曲も思い浮かぶんですよ。でも、そういう曲を歌っていたアイドルたちも「明るくて元気でかわいい曲」ばかり歌っていたわけではない。同じアイドルがマイナー調のシリアスな曲も歌っていたし、切ないバラードも歌っていたりした。同じアイドルが歌っていたのに「明るく元気でかわいい」曲だけが「アイドルっぽい曲」と扱われるっていうのは、ちょっと不思議ですよね。
中森明菜という歌手が1980年代を代表するアイドル歌手のひとりであったことに異論のある方は少ないと思いますけど、彼女の歌っていた曲はほとんどがむしろ暗い曲、少なくとも「明るく元気」な曲ではないですよね。さらに時代を遡れば、1970年代に活躍し、おそらく日本芸能史を代表するアイドル歌手であろう山口百恵も「明るく元気」な曲が多くはありませんでした。その時代を代表するアイドル歌手が歌っていたにも関わらず、それらの曲は「アイドルっぽく」ないということになってしまうのでしょうか?
いろいろ考えていくうちに「明るく元気でかわいい曲を歌うアイドル」の例をひとり思いつきました。いまこの時期に名前を出すのもなんですけど、酒井法子です。ただ、改めてディスコグラフィを見てみたら、わりと初期からマイナー調の曲も出していたり、やはり「明るく元気でかわいい曲」ばかり歌っていたというわけではありません。それに、彼女のデビューした1980年代後半はアイドル歌手というものの位置付けが変わってきはじめたころで、その中であえてすでに不自然に感じられつつあった「明るく元気でかわいい」というイメージを戦略的に打ち出していたような気もするのです。ちなみにその路線はその後同じレコード会社の高橋由美子に受け継がれたんじゃないかと。ニックネームも“ピー”つながりだったりするし。


と、ここまで書いてきた思い出したのが、“スポ根マンガでよくあるパターン”とか“刑事ドラマでよくあるパターン”みたいな“よくあるパターン”ネタです。そういうネタって、聞いているときには「それってあるある!」とか思うんですけど、実際に過去のスポ根マンガや刑事ドラマの代表的な作品を見直してみると“よくあるパターン”に当てはまる展開をしている作品って、実はなかったりする。ほんとは存在しない“典型的なパターンの作品”というのを、多くの人がイメージとして共有しているんですよね、不思議なことに。
「アイドルっぽい曲、アイドルらしい曲」っていうのもそれと同じで、その「らしさ、っぽさ」の基準となるアイドル歌手って、実はどこにもいないんじゃないでしょうか。いや、むしろ誰しもの心の中にいるのです……ってほうが適切かもしれませんね(笑)。



さて、この文章を書くにあたって自分の文章を検証してみたら「アイドルらしい」は、たぶん使ったことがありません。「アイドルっぽい」も、そんなに使ってないはず。でも「アイドル的な」とか「いかにもアイドルポップス」とかの似たような表現は、けっこう使っています。一応タイトルは挙げなくても具体的な曲を想定して書いているつもりではあるのですが、漠然としたイメージで便利な表現として使っちゃっていることもあるんで、そこは大目に見てやってください、スミマセン(笑)。