鉄よりつよいもの。(旧)

KKTのブログ『鉄よりつよいもの。』のはてなダイアリー時代(2004年から2017年まで)のアーカイヴです。新規更新はしません。現在は新しいブログ http://kkt.hatenablog.jp/ をたまに更新

In His Own Words

もともとはハロプロネタから始まった内容ではあるんですけど、書いているうちにずいぶんハロプロとは離れてしまったので別カテゴリで。おまけに長いのでご了承のほどを。


「君は今 生きているのか? 死んでいるのか? その中間は許されない」
「根本的な才能とは 自分に何かが出来ると信じることである」
8月28日、29日放送の『ベリキュー!』のオープニングの名言紹介コーナーで、このふたつがジョン・レノンの名言として紹介されました。オンエアを見て原文を知りたくなり、調べてみました。それが長い道程となるとも知らずに……。






まず、28日の「君は今〜」から。
とりあえず「その中間は許されない」で検索してみると、思ったよりヒット数は少ない。検索結果上位には、著名人の名言を集めたサイトと、『ベリキュー!』のオープニングについて書いているサイトが早速ヒットします。グーグル先生仕事はえーよ(笑)。
そのほか、個人のブログなどで引用しているのがいくつか。しかし、名言集サイトでも、ブログでも、出典や原文を示しているものがありません。うーん困った。
ここで日本語のサイトから調べるのを諦めて、海外のサイトを調べることにしました。海外にもミュージシャンの名言を集めたサイトがあるので、そのいくつかを巡って、だいたい50以上のジョン・レノンの名言に目を通してみましたが、当てはまるものがありません。
こりゃ原文を探すのは無理かなと思って、もう1度日本語の検索結果を見てみると、どうやら元・ビートルズのメンバーで若くして亡くなったスチュアート・サトクリフと、そのガールフレンドのアストリッド・キルヒヘルが関係しているような記述がある。
ということで、「Lennon Stuart Astrid Kirchherr」、それから訳文から想像して「"live or die"」をキーワードにして検索。そしたらヒットしましたよ! 海外のいくつかのサイトで、スチュアートが死んだときにジョンがアストリッドにこんな言葉をかけた、という逸話が紹介されています。ただ、やはり出典がわからないのと、サイトによって文章が多少異なっています。
ここからは、きちんと確証を得ていない私の想像です。
この言葉は、アストリッドの回想として「ジョンが私にこう言った」というかたちで、なんらかのメディアをとおして語られて、ファンの間で知られるようになったものではないでしょうか? もしかしたら異なるメディアで複数回にわたって語られたことがあって、そのために若干異なるいくつかのバージョンが伝わっているのかもしれません。
一例として、ローリングストーン誌1985年6月5日号のジュリアン・レノンの記事の中で、記者が紹介しているものを挙げておきます。
John Lennon had said, "Make up your mind. You can't be in the middle. You either live or die."




続いて、29日オンエア分で紹介された「根本的な才能とは〜」について。
こっちも検索してみると、名言を集めたサイトと『ベリキュー!』関連のサイトが上位にきます。「君は〜」より多くのブログやメルマガなどにも引用されていますが、これまた出典も原文も示されていない。たまに出典が書いてあっても、別の名言集サイトだったりで、結局大元がわからない。海外のサイトでジョン・レノンの名言を調べても当てはまるものがないのも同様でした。
いろいろ単語ごとに区切って検索していると、ようやく手がかりになるものが引っかかってきました。『癒しのことば』という、名言を集めた書籍です。その本はGoogleブック検索で全文が検索できるようになっているため、検索結果に引っかかってきたものです。110ページに紹介されているジョン・レノンの言葉に、次のような一節があります。
「基本的な才能とは、自分に何かができると信じることなのです。」
ベリキュー!』で紹介されたのとは“根本的”と“基本的”の違いがあるし、文体が違っていますが、これは翻訳の違いによるもので、同じ原典から訳されたとみていいでしょう。
この本でも出典が明示されていないのですが、この文体には記憶がありました。『ジョン・レノン語録』という本があって、「です、ます」調の文体で訳されているのがミュージシャンの発言集にしては珍しいなと印象に残っていたのです。
というわけで『ジョン・レノン語録』を探してみると……ありました! 40ページから41ページにかけて、上記の『癒しのことば』で紹介されている文章が、まったくそのまま載っています*1。『癒しのことば』は2001年刊で、『ジョン・レノン語録』は2002年刊なのですが、1986年に刊行された『人間ジョン・レノン』の改題再編集版なので、おそらく元の版から引き写したものでしょう。
ジョン・レノン語録』は『John Lennon in His Own Words』という洋書の邦訳です。ウェブ上のほかの名言集や『ベリキュー!』で紹介されたのは、原書から(あるいは原書のソースとなったものから)異なった翻訳をされたものだと思われます。
さすがに原書にはあたれないので、原文がわからないのと、いつ、どこでの発言かがわからないのも残念です*2




さて、以下は数日を費やして上記のことを調べて私が思ったことです。
ふたつの“名言”を紹介したサイトは、ウェブ上でいくつも見つけられます。しかし、前述のように出典を示しているものは、私の調べた範囲ではありません。たぶん“どこかのサイトで見てコピー”というかたちで、孫引きが繰り返されているのではないかと思います*3
これって、けっこう怖いことじゃありませんか? 「誰かの言った言葉」という触れ込みで、出典のわからない言葉が広まってしまう。もしかしたら、完全に捏造した言葉を「誰かの言葉」として広めてしまうことすらできてしまうかもしれない。従来もそれに近いことはあったでしょうが、ウェブによって、そういうことが起こりやすくなっているのではないかと思います。
これらの“名言”が広まる上で、ウェブ上の“名言集”サイトが果たしている役割は大きいと思います。おそらく『ベリキュー!』も、それらのサイトを参考にしているのでしょう*4。それらのサイトのいくつかは多くのアクセスを集めており、書籍化されたサイトもあるようです。
それらのサイトの開設者の方で「言葉の持つ力、言葉の素晴しさ」についてサイトで述べておられる方もいらっしゃいます。しかし、ろくに出典も示さず言葉を垂れ流しておいて「言葉が云々」と語るなんざ片腹痛いわというのが私の感想です。

*1:ジョン・レノン語録』では『癒しのことば』に掲載された文のあと、さらに「ハッピーな状態でいる才能と、ずるける才能のほかに、私には才能なんてありません」と続いています。

*2:ジョン・レノン語録』には「1963年10月」という見出しがついていますが、それが発言がなされたときなのか、あるいはその時期についてのちに言及したものなのかは不明です。

*3:以前に触れた藤子・F・不二雄先生の“名言”とされる言葉についても同じような状況が見られます。

*4:これまでに番組で紹介された“名言”の多くがそれらのサイトで見つかります。