スペシャルであるということ。
昨日も書いたように、安倍さんのツアー『Acoustic なっち』東京厚生年金会館での夜公演を観てきました。
アコースティック編成でのライブでありながら、コンサート序盤から弾けるような躍動感を感じさせるステージ上の安倍さん。そしてそれを支えるバンドの演奏。すでにおこなわれた公演での好評が納得できるステージが、そこでは展開されていました。
そしてそれに加え、この日の公演は私にとって今まで体験したことのないほどサプライズの用意されたコンサートとなりました。
以下、公演の内容に触れますので「続きを読む」で。
まずひとつ目のサプライズ。
今回の公演では、ツアー日程発表当初からスペシャルゲストの出演が予告されていました。コンサートが中盤を迎えたところで、そのひとり目として安倍さんの口から飛び出したそのゲストの名前はなんと「ゲストサックスプレイヤー、保田圭!」。
ツアー日程発表時に1度保田さんの可能性は考えていたのですが、舞台『コースター』が16日まであるため、間1日空けただけの出演は可能性が低いと考えていました。また、後述の理由から別のゲストの登場を確信していただけに、保田さんの、しかもサックスを持っての登場は予想外で驚きでした。
いつものような安倍さんとのふにゃっとしたようなトークに続いて、保田さんも参加して演奏されたのは『好きで×5』。私の位置からは機材がはっきり確認できなかったのですが、パーカッションのASAMI嬢がおそらくローランドのHandSonicを駆使してドラムのフレーズを演奏。さらに岩崎肇氏がデジタルピアノの低音部にウッドベースの音色を当てて演奏することで、CDのイメージに近いアレンジでの演奏でした。
引き続き保田さんが参加して『Memory 青春の光』。この曲で感じたのが、今回のバンドのコーラスワークの巧みさ。岩崎肇氏、ASAMI嬢、久保田邦夫氏という3人からなる今回のツアーバンドは、全員がコーラスできるというのが強み。特にそれを感じたのがこの曲で、「Just Breaking My Heart」のフレーズが男声により歌われるのが新鮮でした。
そしてふたつ目のサプライズ。ふたり目のスペシャルゲストとして、保田さんと入れ替わりに登場したのは、春ツアーにも参加していたギタリスト・徳武弘文氏。実は開演前から氏の登場は確実視していたので*1ここでは驚かなかったんですが、徳武氏を迎えて1曲目に演奏される曲のタイトルが安倍さんから紹介されたときに思わず「えっ」と声を上げました。『今、いちばんのありがとう』というその曲は、1990年ごろいまは亡き小坂一也氏が歌った、徳武氏作曲のナンバーです。CMソングとして使われていたのでサビのフレーズには聞き覚えのある方もいらっしゃるかもしれませんが、決して有名な曲ではないし、生で歌われる機会は決して多くなかった曲です。その、隠れた名曲的な歌が、思いもかけず安倍さんの歌で、しかも作曲者自身のギター演奏で聴くことができるというのは、格別なものでした。
徳武氏はそれ以降も全曲に参加し、コンサート後半はツインギター編成での演奏となりました。役割としてはベーシックなバッキングは久保田氏というかたちになっていたようで、ギターが徳武氏ひとりだったときよりも氏の特色が活かされたプレイになっていたと思います。
今回のコンサートは『息を重ねましょう』『小説の中の二人』と、自分の好きなアーティストが作詞した曲が歌われるというだけでも私にとっては特別なものだったのですが、それに加えて好きなハロメンである保田さん、好きなギタリストである徳武氏が参加するという、なんとも贅沢で楽しい、まさにスペシャルなものとなりました。
しかし、その“スペシャル”はガッチリと基礎が成り立った上でこそ存在し得るもの。その確固たる基礎を作り出すことのできる、安倍さんの力を改めて感じさせられました。
厚生年金会館という大きな会場で、凝った舞台装置も使わず、3人という(後半ではゲストに徳武氏とバイオリンの藤田弥生氏も迎えた5人編成となりますが)小編成のバンドスタイルでコンサートをおこなうというのは、ひじょうに大胆な試みです。それが成立しているのは、もちろん集まった演奏者の優れた技術によるところも大きいと思いますが、優れたプレイヤーによる演奏とわたりあって歌えるだけの力と、たったひとりで会場全体を満たせる存在感を持った“主役”があってこそのもの。今回の、シンプルに「歌を聴かせる」ことに特化したコンサートは、10年間さまざまなかたちのステージ経験で積み上げてきた技術と表現力、さらに天性の資質を備えた安倍さんだからこそ成し遂げられたもの。限られた者だけが許されているのであろう境地に至れる安倍さんは、やはり飛び切りの「スペシャル」な存在なのだと思わされました。
最後に、あんまり需要もないと思いますけどバンドメンバーの機材で私が確認できたものを。
- 岩崎肇